カテゴリー: IoT・組込み

  • Meta×AMD 1000億ドル契約とバッテリー不要IoT:海外インフラ・ハードウェアの激動

    2026年2月最終週、テックインフラの世界で歴史的な動きがありました。MetaとAMDの1000億ドル規模のチップ契約と、バッテリー不要IoTの業界標準化を目指すAmbient IoT Allianceの発足です。日本ではあまり報道されていませんが、いずれも今後のテック業界の方向を決定づける重要なニュースです。

    Meta × AMD:史上最大のAIチップ契約

    2月24日、MetaがAMDと最大1000億ドル(約15兆円)の複数年チップ契約を発表しました。AI史上最大の単一契約です。

    契約の詳細

    • ハードウェア:AMD Instinct MI450ベースのカスタムGPU + 第6世代EPYC CPU
    • 規模:最大6ギガワットのAMD GPUキャパシティを展開
    • 出荷開始:2026年下半期
    • 株式ワラント:AMDがMetaに対し、最大1億6000万株(発行済み株式の約10%)を1株あたり0.01ドルで発行するワラントを付与。マイルストーン達成に応じて権利確定

    なぜ重要か

    注目すべきは3つのポイントです。

    第一に、Nvidiaの独占が崩れ始めていること。MetaはNvidiaにも数百万個のGPUを発注していますが、AMDに1000億ドルを投じることで戦略的に分散化を図っています。

    第二に、株式ワラントという前例のないスキーム。ハードウェア契約に株式報酬を組み合わせるのは異例で、AMDの株価(とMetaの交渉力)に大きなインパクトを持ちます。

    第三に、AIインフラ投資の規模感。Alphabet、Amazon、Meta、Microsoftの4社で2026年のAIインフラ投資は合計約6500億ドルに達する見通しです。2025年の約4100億ドルから58%増です。

    Ambient IoT Alliance:バッテリー不要IoTの標準化

    2月23日、Ambient IoT Allianceが設立されました。バッテリー不要のIoTデバイスの標準化を推進する業界団体です。

    参加企業

    設立メンバーはAtmosic、Infineon、Intel、PepsiCo、Qualcomm、VusionGroup、Wiliot。半導体大手からPepsiCoのような消費財企業まで参加しているのが特徴です。

    エナジーハーベスティングIoTとは

    環境中のエネルギー(無線電波、光、振動、温度差など)を収集して動作するIoTデバイスです。バッテリーが不要なため、以下のような用途が想定されています。

    • サプライチェーン:商品の物流トラッキング(バッテリー交換不要)
    • 小売:電子棚札、在庫管理センサー
    • 環境モニタリング:農業、建物の構造監視
    • 医療:使い捨てセンサーパッチ

    PepsiCoの参加は、大手消費財企業がサプライチェーンの可視化にバッテリーレスIoTを本気で検討していることを示しています。ESP32のような汎用IoTチップとは異なるレイヤーですが、IoT業界全体の進化を加速させる動きです。

    まとめ

    ハードウェアとインフラの世界では、AI投資の爆発的な拡大と、IoTの新しいパラダイム(バッテリーレス)が同時進行しています。Nvidiaの独占崩壊とバッテリー不要IoTの標準化は、今後数年のテック業界を大きく変える可能性があります。日本でも注視すべきトレンドです。

  • ESP32の最新動向まとめ(2025-2026):新チップ・Wi-Fi 6・AI対応まで完全解説

    IoT開発者にとって定番のESP32ファミリーですが、2025〜2026年にかけて大きな進化を遂げています。新チップの量産開始、Wi-Fi 6対応、AI推論機能の強化など、注目すべきアップデートが目白押しです。この記事では、ESP32エコシステムの最新動向を網羅的にまとめます。

    新チップラインナップの拡充

    Espressifは従来のESP32シリーズに加え、用途特化型の新チップを続々とリリースしています。

    ESP32-P4:高性能HMI向けSoC

    ESP32-P4はEspressif史上最もパワフルなチップです。デュアルコアRISC-V(最大400MHz)を搭載し、MIPI-CSI/DSIによる1080pカメラ入力・ディスプレイ出力、ハードウェアH.264エンコーダ(1080p@30fps)、55本のGPIOを備えています。

    注目点はWi-Fi/Bluetoothを内蔵しないこと。無線通信はESP32-C6などのコンパニオンチップと組み合わせる設計です。WaveshareやGUITIONからP4+C6を統合した開発ボード(約14ドル〜)が発売されています。

    ESP32-C5:業界初デュアルバンドWi-Fi 6対応MCU

    2025年5月に量産開始されたESP32-C5は、RISC-Vベースで2.4GHz + 5GHzのデュアルバンドWi-Fi 6(802.11ax)に対応した業界初のMCUです。従来のESP32はすべて2.4GHzのみだったため、5GHz帯が使えるのは大きな進化です。さらにBluetooth 5やIEEE 802.15.4(Zigbee/Thread)にも対応しています。

    CES 2026で発表:ESP32-E22とESP32-H21

    ESP32-E22はWi-Fi 6E(2.4/5/6GHz トライバンド)に対応し、2×2 MIMOで最大2.4Gbpsのデータレートを実現。デュアルコア500MHz RISC-Vプロセッサを搭載し、無線コプロセッサとして動作します。

    ESP32-H21は超低消費電力BLE MCUで、96MHz RISC-V、320KB RAM、BLE + IEEE 802.15.4対応。ウェアラブルやバッテリー駆動IoTノード向けです。

    開発フレームワークの進化

    ESP-IDF 6.0(2026年2月リリース)

    ESP-IDFのメジャーアップデートであるv6.0が2026年2月13日にリリースされました。主な変更点はMbedTLS v4シリーズへのアップグレードとPSA Crypto APIへの移行です。暗号化APIの使い方に破壊的変更があるため、既存プロジェクトの移行には注意が必要です。

    Arduino ESP32 Core 3.x

    Arduino ESP32 Core 3.0はESP-IDF 5.1ベースに刷新され、ESP32-C6やESP32-H2のサポートが追加されました。8つの周辺機器APIが更新され、ネイティブI2Cオーディオライブラリ、Ethernet SPIサポート(W5500、DM9051等)も追加されています。2.x系からの移行には破壊的変更があるため注意が必要です。

    セキュリティ:CVE-2025-27840「バックドア」騒動

    2025年3月、ESP32に29個の文書化されていないBluetooth HCIコマンドが見つかり「バックドア」として話題になりました。しかしEspressifは、これらはデバッグ用コマンドであり物理アクセスなしにはリモートで悪用できないと説明。ESP-IDF v5.5でこれらのコマンドをデフォルト無効化する修正が行われました。

    Matter/Thread対応の成熟

    スマートホーム標準プロトコル「Matter」への対応が着実に進んでいます。ESP32ファミリーはMatter 1.0認証を取得済みで、Thread Border RouterソリューションもThread V1.3認証を取得しています。ESPHome 2025.6.0ではOpenThreadサポートが追加され、ESP32-C6/H2をThreadエンドポイントとしてHome Assistantに直接接続できるようになりました。

    まとめ

    ESP32ファミリーは単なるWi-Fiマイコンから、Wi-Fi 6/6E、Thread/Matter、AI推論、1080p映像処理まで対応する総合IoTプラットフォームへと進化しています。用途に応じて最適なチップを選べるラインナップの充実が最大の魅力です。次回はESP32でのAI/TinyMLについて詳しく解説します。

  • ESP32-S3でTinyML入門:エッジAI推論を実装する方法

    クラウドに頼らず、マイコン上で直接AI推論を行う「TinyML」が注目を集めています。ESP32-S3はベクトル命令拡張を備え、TinyMLに最適なチップの一つです。この記事では、ESP32-S3でのエッジAI開発について、ツールチェーンからモデルデプロイまで解説します。

    なぜESP32-S3なのか

    ESP32-S3はデュアルコアXtensa LX7(最大240MHz)に加え、ベクトル命令拡張を搭載しています。これにより畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の演算が高速化されます。ESP-NNライブラリがこれらの命令を最適に活用し、推論電力は約130〜157mW、レイテンシはモデルサイズに応じて7ms〜536msです。

    実用的な性能として、小型CNNなら約20FPS、中規模モデルでも約1FPSで推論可能です。顔検出、動体検知、音声コマンド認識などのユースケースに十分な性能です。

    ESP-DL:Espressif公式ディープラーニングライブラリ

    Espressifが提供するESP-DLは、ESP32向けの公式ディープラーニングフレームワークです。2025年に大幅なアップデートが行われました。

    ESP-DL v3.2(2025年10月)の主な特徴:

    • 独自のモデルフォーマット「.espdl」(FlatBuffersベースで高速なゼロコピー読み込み)
    • 8bit/16bit量子化サポート
    • ESP32-S3/P4向けのアセンブリ最適化カーネル(PIE命令活用)
    • Conv、Gemm、Add、Mulなどの主要演算をハードウェアアクセラレーション

    ESPDet-Pico:リアルタイム物体検出

    2025年4月にリリースされたESPDet-PicoはUltralytics YOLOv11ベースの軽量物体検出モデルです。歩行者検出、顔検出、COCO(YOLO11n)、猫・犬・手の検出など、事前学習済みモデルが提供されており、ESP32-S3上でリアルタイム推論が可能です。

    開発フロー

    ESP32でTinyMLを始める基本的な流れは以下のとおりです。

    1. モデル学習:PC上でPyTorch/TensorFlowでモデルを学習
    2. 量子化:esp-ppqツールで8bit/16bitに量子化し、.espdlフォーマットに変換
    3. デプロイ:ESP-DLライブラリを使ってESP32上でモデルをロード・推論
    4. 最適化:ESP-NN/PIE命令による自動最適化が適用される

    より手軽に始めたい場合はEdge Impulseがおすすめです。Webブラウザ上でデータ収集からモデル学習、ESP32へのデプロイまで一貫して行えます。深いML知識がなくても物体検出や音声認識モデルを構築できます。

    ESP32-S3 + カメラの活用例

    ESP32-S3はカメラインターフェースを備えているため、映像系のAIアプリケーションに強みがあります。DFRobotの「ESP32-S3 AI Camera」(8MB PSRAM、16MBフラッシュ)は、顔認識・物体検出・音声対話をエッジで実行できる開発ボードとして2025年に発売されました。

    代表的なユースケース:

    • Ringの代替となるローカル動作のドアベルカメラ
    • ペット検知・見守りカメラ
    • 製造ラインでの外観検査
    • 来客カウンターや人流分析

    まとめ

    ESP32-S3はTinyMLの実用的なプラットフォームとして成熟しました。ESP-DL v3.2とESPDet-Picoにより、YOLOベースの物体検出まで手の届く範囲になっています。数百円のマイコンでAI推論ができる時代を、ぜひ体験してみてください。

  • Rust × ESP32開発が本格化:esp-hal 1.0のインパクトと始め方

    2025年10月、ESP32向けRust HAL「esp-hal」がバージョン1.0.0に到達しました。これはマイコンベンダーが公式にサポートする初の安定版Rust HALであり、組込みRust界にとって画期的な出来事です。この記事では、esp-hal 1.0の意義と、ESP32でRust開発を始める方法を解説します。

    esp-hal 1.0.0とは

    esp-halはEspressifが公式に開発・メンテナンスしている、ESP32ファミリー向けのRustハードウェア抽象化レイヤー(HAL)です。2025年2月にベータ版、10月に正式リリースされました。

    1.0で安定化された機能:

    • HAL初期化(esp_hal::init)と設定
    • GPIO、UART、SPI、I2Cドライバ
    • 時間モジュール(Instant、Duration、Rate)
    • async/blockingの両方のドライバモード
    • Embassyなどの非同期ランタイムとの互換性

    その他の機能はunstableフィーチャーフラグの下に配置され、段階的に安定化される予定です。次の大きな安定化ターゲットはWi-Fi/Bluetooth/ESP-NOWスタック「esp-radio」です。

    2つの開発アプローチ

    ESP32でRustを使う方法は2つあります。

    1. no_std + esp-hal(ベアメタル)

    OSを使わず、ハードウェアを直接制御するアプローチです。バイナリサイズが小さく、起動が速く、リアルタイム性が必要な場面に適しています。esp-hal 1.0はこのパスの安定版です。

    2. std + esp-idf-hal(IDF上で動作)

    ESP-IDFの上にRust標準ライブラリを載せるアプローチです。スレッド、ネットワーキング、ファイルシステムなど標準ライブラリの機能がフルに使えます。バイナリは大きくなりますが、機能の網羅性は高いです。

    LLVM Xtensaアップストリーム化

    ESP32・ESP32-S2・ESP32-S3が採用するXtensaアーキテクチャのLLVMサポートが、本家LLVMへのアップストリーム化が進んでいます。基本ISAの大部分はすでにLLVM本体に取り込まれており、将来的にはEspressifのカスタムLLVMフォークなしで、標準のRustツールチェーンからXtensaターゲットにコンパイルできるようになります。

    なお、RISC-VベースのESP32-C系/H系チップはすでに標準ツールチェーンでコンパイル可能です。

    始め方

    ESP32でRust開発を始める手順は以下のとおりです。

    1. RustインストールrustupでRustをインストール
    2. espupインストールcargo install espupでESP32用ツールチェーンマネージャを導入
    3. ツールチェーン構築espup installでXtensa対応ツールチェーンを自動セットアップ
    4. プロジェクト作成cargo generate esp-rs/esp-halテンプレートからプロジェクトを生成
    5. ビルド&フラッシュcargo runで実機にフラッシュして実行

    まとめ

    esp-hal 1.0.0のリリースにより、ESP32でのRust開発は「実験的」から「プロダクション対応」へと段階が上がりました。メモリ安全性とゼロコスト抽象化というRustの利点を、IoTデバイス開発で活かせる時代が来ています。C/C++に慣れた組込みエンジニアも、ぜひRust on ESP32を試してみてください。

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