ESP32-S3でTinyML入門:エッジAI推論を実装する方法

クラウドに頼らず、マイコン上で直接AI推論を行う「TinyML」が注目を集めています。ESP32-S3はベクトル命令拡張を備え、TinyMLに最適なチップの一つです。この記事では、ESP32-S3でのエッジAI開発について、ツールチェーンからモデルデプロイまで解説します。

なぜESP32-S3なのか

ESP32-S3はデュアルコアXtensa LX7(最大240MHz)に加え、ベクトル命令拡張を搭載しています。これにより畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の演算が高速化されます。ESP-NNライブラリがこれらの命令を最適に活用し、推論電力は約130〜157mW、レイテンシはモデルサイズに応じて7ms〜536msです。

実用的な性能として、小型CNNなら約20FPS、中規模モデルでも約1FPSで推論可能です。顔検出、動体検知、音声コマンド認識などのユースケースに十分な性能です。

ESP-DL:Espressif公式ディープラーニングライブラリ

Espressifが提供するESP-DLは、ESP32向けの公式ディープラーニングフレームワークです。2025年に大幅なアップデートが行われました。

ESP-DL v3.2(2025年10月)の主な特徴:

  • 独自のモデルフォーマット「.espdl」(FlatBuffersベースで高速なゼロコピー読み込み)
  • 8bit/16bit量子化サポート
  • ESP32-S3/P4向けのアセンブリ最適化カーネル(PIE命令活用)
  • Conv、Gemm、Add、Mulなどの主要演算をハードウェアアクセラレーション

ESPDet-Pico:リアルタイム物体検出

2025年4月にリリースされたESPDet-PicoはUltralytics YOLOv11ベースの軽量物体検出モデルです。歩行者検出、顔検出、COCO(YOLO11n)、猫・犬・手の検出など、事前学習済みモデルが提供されており、ESP32-S3上でリアルタイム推論が可能です。

開発フロー

ESP32でTinyMLを始める基本的な流れは以下のとおりです。

  1. モデル学習:PC上でPyTorch/TensorFlowでモデルを学習
  2. 量子化:esp-ppqツールで8bit/16bitに量子化し、.espdlフォーマットに変換
  3. デプロイ:ESP-DLライブラリを使ってESP32上でモデルをロード・推論
  4. 最適化:ESP-NN/PIE命令による自動最適化が適用される

より手軽に始めたい場合はEdge Impulseがおすすめです。Webブラウザ上でデータ収集からモデル学習、ESP32へのデプロイまで一貫して行えます。深いML知識がなくても物体検出や音声認識モデルを構築できます。

ESP32-S3 + カメラの活用例

ESP32-S3はカメラインターフェースを備えているため、映像系のAIアプリケーションに強みがあります。DFRobotの「ESP32-S3 AI Camera」(8MB PSRAM、16MBフラッシュ)は、顔認識・物体検出・音声対話をエッジで実行できる開発ボードとして2025年に発売されました。

代表的なユースケース:

  • Ringの代替となるローカル動作のドアベルカメラ
  • ペット検知・見守りカメラ
  • 製造ラインでの外観検査
  • 来客カウンターや人流分析

まとめ

ESP32-S3はTinyMLの実用的なプラットフォームとして成熟しました。ESP-DL v3.2とESPDet-Picoにより、YOLOベースの物体検出まで手の届く範囲になっています。数百円のマイコンでAI推論ができる時代を、ぜひ体験してみてください。

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