Aliexpress の格安 GNSS アンテナで QZSS L6 が本当に取れるか実測してみた(ラベルに L6 なし・E6 ありなら物理的に同じ帯域)

計測セットアップ全体(ヘリカルアンテナ + NEO-D9C Plugin + simpleRTK3B Compass)
計測セットアップ全体(ヘリカルアンテナ + NEO-D9C Plugin + simpleRTK3B Compass)

要約

u-blox 純正の L1〜L6 マルチバンド GNSS アンテナ ANN-MB2-00(¥13,860)を、AliExpress の格安アンテナ 2 種(¥3,355 と ¥5,912)に置き換えて QZSS L6 帯(1278.75 MHz)が本当に受信できるか、ArduSimple NEO-D9C Plugin で並走比較計測した。

  • 3 本すべて L6D を errStatus=ErrorFree で実用受信。平均 CNO は 41 dBHz 台で有意差なし
  • 格安側の現物ラベルには 「L6」と書かれていない。だが「E6」と書かれている。L6 と E6 は 同一周波数(1278.75 MHz)なので物理的に同じ帯域、自動的に取れる
  • 8 台量産で アンテナコスト ¥168k 削減、ヘリカル型はスマホ一体型筐体への収まりも純正パッチより良い

背景:純正アンテナの単価がきつい

みちびき L6 帯(CLAS / QZNMA 信号認証)を扱うための受信機の試作 8 台 + アンテナ 2 本 = 計 16 本を u-blox ANN-MB2-00 で揃えると ¥221,760。目標単価 10 万円/台のプロジェクトには重い。AliExpress には「L1/L2/L5/L6 対応」を謳う ¥3,000〜6,000 帯のアンテナが多数並んでいるが、ラベルだけ広告で実体は L1 のみ、という中華 GNSS あるあるパターンが容易に予想できる。

そこで純正と格安 2 種を実機で並走比較し、L6 帯が本当に取れるかをバイナリ判定することにした。

対象機材

  • A: u-blox ANN-MB2-00(¥13,860) — パッチ型、active、bias-T 内蔵、L1/L2/L5/L6/E6/B3/L-band 公称。入手元: ジオセンス Yahoo!店
  • B: TAN1216Q50(AliExpress、¥3,355) — ヘリカル、28 dB ゲイン、IP67、商品タイトルは「L1 L2 L5 L6 … E6」を謳う。AliExpress 商品ページ
  • C: HX-901(AliExpress、¥5,912) — ヘリカル、28 dB ゲイン、IP67、DC 3〜16 V。AliExpress 商品ページ

価格比は B = A × 0.24、C = A × 0.43。

A: u-blox ANN-MB2-00 パッチ型のリファレンス機
A: u-blox ANN-MB2-00 — パッチ型のリファレンス機
B / C: ヘリカル型の側面
B / C: ヘリカル型(細長い円柱)。スマホ筐体への収まりが良い。

計測構成

[アンテナ] → SMA → NEO-D9C Plugin → micro USB → Linux ホスト → rxm-monitor
                                                  (/dev/ttyACM0)

NEO-D9C Plugin は micro USB 経由で u-blox CDC ACM デバイスとして直接ホストに見える(過去記事の解説参照: NEO-D9C で L6 raw を取り出すまでに踏んだ 3 つの罠)。ホスト側は自前 Rust の rxm-monitor で UBX-RXM-QZSSL6 を解析し、L6D ch1/ch2 の受信率と errStatus、CNO を集計する。

計測条件は同一窓際位置・同一時間帯(約 10 分以内に A → B → C 順次)・各 64 秒。差し替え直後は L6D 再捕捉に十数秒かかるので、本計測前に 15 秒プローブで捕捉を確認してから計測している。

計測結果

A: ANN-MB2-00B: TAN1216Q50C: HX-901
価格¥13,860¥3,355 (A × 0.24)¥5,912 (A × 0.43)
L6D 総フレーム65128130
受信レート1.0 Hz (1ch)2.0 Hz (2ch)2.0 Hz (2ch)
捕捉 QZSQZS-7QZS-2 / QZS-4QZS-4 / QZS-7
errStatus100% ErrorFree100% ErrorFree100% ErrorFree
平均 CNO41.0 dBHz41.3 dBHz41.2 dBHz

3 本とも合格。「L6 偽装」はゼロ。CNO も 41 dBHz 台で完全に同レンジ。むしろ格安側の B / C のほうが L6D ch1/ch2 を 2 ch 同時に捕捉している(A は計測時 ch1 単独)。

捕捉 SV が計測ごとに違う(A=7 / B=2,4 / C=4,7)のは、空がほぼ同一・差し替えごとの受信機側 L6D チャンネル再割り当てによるもので、特定アンテナ依存の偏りではない(QZS-7 は A と C、QZS-4 は B と C で重複して見えている)。

「ラベルに L6 と書いてないのに L6 が取れる」の謎

B(TAN1216Q50)の現物ラベルを撮ったらこう書いてある:

B: TAN1216Q50 の底面ラベル — L6 の表記が無く E6 まで
B: TAN1216Q50 の底面ラベル。GNSS L1/L2/L5 B1/B2/B3 E1/E5/E6 と書かれているが「L6」は無い。
GNSS L1/L2/L5 B1/B2/B3 E1/E5/E6
GNSS ANTENNA
C: HX-901 の底面ラベル
C: HX-901 の底面ラベル。型番と DC3〜16V、サイズ表記のみで対応バンドの記載なし。

「L6」が無い。商品タイトルでは「L1 L2 L5 L6 G1 G2 B1-B3 E1 E5 E6 + L-band」と謳っていたが、現物ラベルは E6 止まり。一瞬「やはり広告詐欺か」と思うのだが、実際は L6 がしっかり取れている。物理的根拠はこうだ:

  • QZSS L6: 中心周波数 1278.75 MHz
  • Galileo E6: 中心周波数 1278.75 MHz
  • BeiDou B3: 中心周波数 1268.52 MHz(隣接帯域、共通アンテナで取れる)

つまり QZSS L6 と Galileo E6 は 同一周波数の同一帯域。アンテナは物理的に共振帯域で動作するデバイスなので、E6 に対応した瞬間に L6 にも自動的に対応する。逆に言えば、アンテナ屋がラベルに「L6」「E6」を別に書くインセンティブはなく、Galileo 仕様の E6 だけ書いておけば十分(市場が広い欧州 Galileo 視点)。

この仕様の物理的同一性を理解していれば「ラベルに L6 と書いてないアンテナ」も候補に入れられる。逆に 「L6 と書いてあるアンテナだけ」に絞ると、E6 表記の安価アンテナ群を全部見落とすことになる。日本人ユーザーが「L6 表記」だけ検索して u-blox / Tallysman の高価品にロックインされやすい構造的な罠である。

コスト試算とフォームファクタ

本プロジェクトは試作 8 台 × アンテナ 2 本(heading 用 dual-antenna 構成)= 16 本必要。

選択肢単価16 本合計
A: ANN-MB2-00 で全部揃える¥13,860¥221,760
B: TAN1216Q50 で全部置換¥3,355¥53,680
差額¥168,080 削減

さらにフォームファクタ。A のパッチ型は平面実装向きで、スマホ筐体に貼ると目立つ。B / C のヘリカル型は細長く(Ø42 × H44 mm)、スマホ背面のカメラ突起の隣に並べる構成で違和感が少ない。製品化適性は B / C が明らかに高い。

実機 tips(再現用の落とし穴メモ)

  • rxm-monitor 出力に tracing-subscriber の ANSI カラーコードが入ると awk -F'band='grep 'cno=' がマッチしない。env NO_COLOR=1 を付けて実行する
  • Cargo.lock が version 4 のため rustc/cargo 1.78+ が必要。Ubuntu 22.04 標準の cargo 1.75 だとビルドが失敗するので、rustup 経由で stable を入れる
  • アンテナ差し替え直後は L6D 再捕捉に 十数秒かかる。本計測の前に 15 秒プローブで捕捉を確認してから 60 秒計測に入る
  • 窓際は時間帯次第で QZS の仰角が変わるので、A→B→C は 10 分以内に連続実行する。順番を入れ替えても結果再現性は高いはず

まとめ

  • QZSS L6 帯のアンテナ選定で「L6」ラベルだけを検索条件にすると、同じ物理帯域である Galileo E6 ラベルの安価アンテナ群を全部見落とす
  • L6 = E6 = 1278.75 MHz の物理的同一性を理解し、E6 対応のヘリカル等を候補に入れることで、アンテナコストを 1/4 以下に下げられる可能性がある
  • 実機での並走比較で 3 本とも errStatus=ErrorFree、CNO 41 dBHz 台で有意差なしを確認
  • 製品化視点でもヘリカル型はスマホ筐体への収まり良し

もちろん中華アンテナの個体差・耐久性・温度特性は別軸で検証が必要なので、本記事の結論は「単発の RF 性能評価で実用域」までである。長期安定性や屋外環境での性能は別途データを積む必要がある。が、初動の試作機材選定としては「L6 ラベルなし、E6 ラベルあり」の格安アンテナを選択肢から外す理由は無い。

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